Izumi Kohno
Photo : Ukyo Koreeda
Edit & Design : BAUM LTD.
恵比寿ガーデンプレイス30周年を祝う特別企画「みんなでつくるビールプロジェクト from YEBISU BREWERY TOKYO」。その名の通り、このプロジェクトでは恵比寿ガーデンプレイスのワーカーや住人が参加し、ゼロからビールを生み出す挑戦が行われました。
2024年という節目の年、この街でのビール醸造が約35年ぶりに再開されたことも重なり、プロジェクトは特別な意味を持つものとなりました。「ヱビスビールが生まれた街だからこそ、地域と深くつながる一杯を作りたい」という思いを胸に、約6か月間にわたる活動が繰り広げられました。
座談会では、企画担当者、醸造責任者、そしてプロジェクトメンバーが一堂に会し、プロジェクトの裏話やその意義を語り合いました。
ーはじめに、みなさんの自己紹介をお願いします。
須貝 サッポロ不動産株式会社の須貝です。恵比寿ガーデンプレイスやまちづくりの計画策定・推進を担当しています。
有友 サッポロビール株式会社の有友です。醸造責任者として、すべてのビールの設計から醸造、ネーミング、スタンプのデザインまで手掛けています。
M・T このプロジェクトのメンバーです。普段は、恵比寿ガーデンプレイス内にある会社でゲーム開発の仕事をしています。企画して開発、という部分では、このプロジェクトもゲーム開発の仕事も似ているように思います。
M・Y 同じくこのプロジェクトのメンバーです。私も恵比寿ガーデンプレイスにある外資系の広告代理店で働いています。転職してまだ1年で、恵比寿のことをあまり知らなかったのですが、このプロジェクトが良いきっかけになればと思い、参加しました。
ーこのプロジェクトを立ち上げた背景や目的について教えてください
須貝 ヱビスビールは、この地で育まれた伝統的な存在です。このプロジェクトでは、ビールという強いコンテンツを通じて、地域の人々がつながり、新たな価値を生む場を作りたいと考えました。恵比寿ガーデンプレイスのオフィスは単に働く場所としてだけでなく、働くことと遊ぶことがうまく融合することで新しい発見やひらめきが生まれる場所にしていくことを目指していましたので、このプロジェクトがその一助になれば嬉しいと考えました。
有友 私は普段、ビールの味づくりやレシピ開発に携わっていますが、地域とつながるビールを作ることに強い魅力を感じました。「恵比寿ガーデンプレイスでしか味わえない特別なビール」というアイデアが実現できるよう、参加者の皆さんと力を合わせて取り組みました。
ープロジェクトに参加された動機や、最初の印象について教えてください。
M・T 私はものづくりが好きなので、すぐに興味を持ちました。特に「めでたい」「ゆるい」といった形容詞を議論するワークショップは、自分の普段の仕事であるゲーム開発にも通じる部分が多かった気がします。最初のキックオフイベントで皆と乾杯したとき、これから始まるワクワク感でいっぱいでした。
M・Y 私は広告代理店で戦略プランニングを担当していますが、このプロジェクトでビールづくりの世界に初めて触れ、ビールが世の中にどのように展開され、愛されるようになるのか、を実体験するという貴重な経験を得ました。特にクラフトビールの奥深さには驚きましたし、自分の仕事に活かせる新しい視点も得られたと思います。応募のときは、「自分がこんな特別な体験に関われるのか」と少し不安でしたが、参加できて本当に良かったと感じています。
ーワークショップの中で最も印象に残ったことは何ですか?
M・T 形容詞を考えるセッションですね。「めでたい」という言葉に皆が「恵比寿らしい」と納得した瞬間は、とても印象的でした。それが実際にビールのコンセプトとして反映されたとき、自分たちが本当にプロジェクトの一部なんだと実感しました。
M ・Y 誰と飲むか、いつ飲むか、そのビールを飲んでどんな気持ちになるかなどを考えるわけですが、私自身、それをどうやって商品に落とし込むのか、というプロセスに興味がありました。ですので、「コンセプトができました」と言われた瞬間が印象に残っています。私たちが出した、「こんなビールを作りたい」という漠然としたイメージが具現化することに感動しました。
有友 参加者の皆さんと一緒に「足つきのグラスで楽しむビール」を形にする過程は非常に心に残っています。コンセプトが具体的な味やデザインに落とし込まれていく様子は、私自身も新たな挑戦でした。
ー「空とレンガと私の午後」が完成した瞬間の気持ちは?
M・T 足つきのグラスでじっくり飲むビールが完成したと聞いて、本当に感動しました。私自身も苦味の強いクラフトビールが好きで、今回のビールは「ビール好きのための一杯」だと感じています。
M・Y 初めて香りを試した瞬間、ワインのような華やかさと、しっかりとした飲みごたえが両立していることに驚きました。実家にもすぐに送りましたし、家族と一緒に楽しむ時間がとても特別なものになりました。お披露目イベントのあと、数量限定で販売したらあっという間に売り切れたというのも嬉しかったです。
有友 参加者の皆さんが考えたコンセプトやデザインを、きちんと形にできたことが何より嬉しかったです。「ただ飲むだけのビールではなく、物語を感じられる一杯」に仕上がったと思います。
ープロジェクトを通じて得られたもの、今後の展望について教えてください。
須貝 デザインワークショップで、参加者が事前に撮影した写真に想いを込めてタイトルをつけて発表した際に、恵比寿ガーデンプレイスの様々な魅力に気づくことができました。都会の喧騒を感じさせない緑や広がりのある空間が魅力だと感じてくださっていて、そこに働く人や住む人が織りなすストーリーがこの街の価値を高めていると感じました。恵比寿の中でも、特に恵比寿ガーデンプレイスは『はたらく』と『あそぶ』という一見すると異なるものが融合して、『ひらめく』が生まれる特別な場所。この価値を次の世代にも伝えていきたいです。
有友 プロジェクトの終盤、完成したビールを手にしたときに感じたのは、地域の人たちの熱意やアイデアが詰まったビールが本当に形になったんだ!という感動です。ビールは、ただの飲み物ではなく、街や人をつなぐ媒体です。これからも、このつながりを育てていきたいですね。また、恵比寿を「ビールの街」として、国内外にその魅力を発信していきたいです。今回の経験を活かして、さらに多くの人と共創できる機会を作っていければと思います。
M・Y 私はすべてのワークショップに皆勤賞で参加しました。働きながら平日の夜に集まるのは大変なこともありましたが、参加者同士でコミュニティができた感覚がとても新鮮でした。出来上がったビールが完売したという報告を聞いたとき、自分たちの努力が形になったことを実感しました。今回のビールづくりを通じて、ビールがただの飲み物ではなく、ストーリーを伝えるツールでもあると気づきました。
M・T このプロジェクトで何より印象に残っているのは、『はたらく』『あそぶ』『ひらめく』の3つが自然に一体化していたことです。普段の仕事では、ひらめく工程はほんの一部で、後はルーチンワークが多いのですが、ここでは企画やアイデアに集中する新鮮な体験ができました。皆と楽しく過ごしながら、新しいことに挑戦できたのが嬉しかったですね。
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恵比寿ガーデンプレイスの広々とした空間や自然の中で、ただ働くだけではない『ひらめき』の瞬間を得られるプロジェクトが実現しました。ここから得られた学びや楽しさが、また新たな恵比寿の物語を紡ぐきっかけになることでしょう。
ビールを中心に歴史を重ねてきたまちは、クリエイティブな人々が集まる場所、美食を堪能できる場所、さまざまな学びを得られる場所。そして、映画や音楽、アート、ファッションといった洗練されたカルチャーが渾然一体となり、訪れるたびに刺激を与えてくれる唯一無二の場所です。これから10年先、20年先、100年先の恵比寿はいったいどのようなまちへと進化していくのでしょうか。再開発が進み、さらに変化し続ける大都会・東京において、願わくば今のように、大人も子どももほっと安らげる恵比寿であってほしい。誰にでもひらかれた、心地よい庭のように。