恵比寿Thinking Cap #7

シェアワークプレイスを通じて事業創出と恵比寿で働く人の未来を考える【後編】

September 10th,2024
7回目となるThinking Capでは、働き方改革やコロナ禍以降のリモートワーク人口の増加によって都市部を中心に続々と誕生しているシェアワークスペースに着目します。その形態はさまざまですが、それぞれ共創や異業種交流を目的としたイベント開催など、新たなコミュニティ形成に注力している点が特長です。今回は、自由度の高いクリエイティブなオフィス空間創造や企画運営事業を手がける企業、リアルゲイトが運営する恵比寿ガーデンプレイスの「POTAL POINT Ebisu」、そして、新たなビジネスや活動が生み出されるためのプラットフォームづくりに注力するバ・アンド・コーが運営する「co-ba ebisu」、両社の担当者にご参加いただき、開業時の想いをはじめ、恵比寿という街における理想的なコミュニティのあり方、新たなビジネス創出のきっかけづくりのヒントなどを伺います。
Text :  Izumi Kohno    Photo : Ukyo Koreeda     Edit & Design : BAUM LTD.
Text :  Izumi Kohno    Photo : Ukyo Koreeda     Edit & Design : BAUM LTD.

ーシェアワークプレイスは「共創が生まれる場」でもあると思いますが、運営されていて感じることはありますか?

黒川  オープンしてまもなくコロナが流行し、入居者交流会などを行うことができなかったので、入居者同士がコミュニケーションを取る機会はほぼなかったんですね。ですが、飲食店が多い恵比寿という土地柄もあり、「飲みに行ったらPORTAL POINT Ebisu」の入居者に会って一緒に盛り上がりました」という話を何度か耳にしました。ビジネスに繋がっていくかどうかももちろん大切ですが、「PORTAL POINT Ebisu」をきっかけに交流が広がるのは理想的な形です。また、みなさんが「PORTAL POINT Ebisu」で働いているということを外で話してくださっていることに嬉しさを感じました。

「POTAL POINT Ebisu」/洋書やアートが飾られたラウンジスペース。

奥澤  「co-ba ebisu」ではコミュニティマネージャーやスタッフが日々コミュニケーションを取っているので、どの人とどの人をお繋ぎできたら良いかを随時共有し、次のアクションに繋げています。たとえば「PRができる人を探している」「動画作成できる人を紹介してほしい」などニーズやお困り事に対して、入居者の皆さんの中でノウハウを持つ方をご紹介したりなどです。また、内装や家具などの工夫で、コミュニティマネージャーが介在しない場面でもコラボレーションが自然発生することも場づくりだと考えています。施設内に卓球台を使った少し個性的なワークデスクがあるのですが、いつの間にか個人で事業を頑張っている方々が朝の時間に集まる場所になっていたりして、実際にそこから協業に繋がった事例もあります。私たちは「共創」を大切にしているので、入居前の面談時からそういった目的や希望を持たれているか確認するようにしています。

「co-ba ebisu」のエントランスを入ると受付があり、入居者とコミュニティマネージャーがフランクに話せるスペースがある。
「co-ba ebisu」カスタム個室付近の廊下スペースにもリラックスムードあふれるフリーアドレス席がある。

「co-ba ebisu」のインフォメーションスペース。

黒川  空間は「入居者さんによって作られる」と言っても過言ではないと思います。施設を作るとき、建築面ができあがっていても、まだ70%くらいしか作れていないんです。残りの30%は、実際に施設を使っていただく入居者さんがどのように使うのか、どのような人が使うのかによるものが多く、それらを掛け合わせて100%を目指します。入居者さんのセレクトはかなり重要な要素で、たとえば、資力があったとしても総合的に考えてこの施設とはマッチしなさそうだなと判断することもあります。ブランディングのためには欠かせない要素です。クライアントの方々には資料で説明しても難しい部分でもあるので、実際に我々の施設をいくつか見ていただいて、働いている方を見てもらい、私たちの意図していることを理解してもらっています。

ーなるほど、どんな方に入居してもらうかもブランディングの一つというのは興味深いですね。ほかに、今抱えていらっしゃる課題があれば教えてください。

奥澤  「co-ba ebisu」は、象徴的な社会の提言であった「働き方改革」をワーカー目線で捉え直して「働き方解放区」と銘打ったのですが、コロナ禍を経て、リモートワークや複数の仕事場を持つことも一般化し、完全出社だった方も含めて、予想外に急速に「解放」されたのではないかと思います。開業から5年経って、今の“働き方解放”ってなんだろうと、見直しているところです。普段はリモートだけど、月に1回はしっかり密に集いたいチームとか、仕事だけではなく趣味を共有する場というのもあってもいいかもしれません。空間全体をかなりオープンに作っているので、オンライン会議をしやすい場所など、時代に合わせたハード面でのリニューアルも検討中です。

黒川  「PORTAL POINT Ebisu」は、開業当初はフォーンブースが少ないなど機能面で意見をいただくことが多かったのですが、2023年の第二期の改装の際、それらの課題を解決することができました。その一方で、入居者が増えたこともあり、入居されている方と外部の方の区別がつきにくくなったという新たな課題が生まれました。イベントを開催するコミュニティラウンジはオフィススペースであり、さまざまな人が集う場所でもあります。過去には非会員の方が使い方を知らずにトラブルになることもあったので、みなさんが気持ちよく使えるスペース作りを考えていく必要があります。

奥澤  コワーキングスペースにはさまざまな価値観や生活スタイルを持った方が集まります。それがプラスに働く人もいれば、ストレスになる人もいるので、そのバランスをどう取っていくかが重要ですよね。

黒川  そうですね。たくさんの方が利用されるので、大きな問題になる前に、ひとつひとつ丁寧に解決していくことが運営側には求められていると思います。リアルゲイトでは有人管理をしている施設が少ないので、その中で共有スペースのクオリティをどう保つかを考えて作っています。また、施設の巡回も定期的にし、クラウドカメラなどで日々の様子をチェックしたりしてサポートしています。何か異変を感じたときはすぐに注意・対応するような体制も整えており、利用者のみなさんにもある程度の緊張感を持っていただくことが安心、安全に繋がると考えています。

「PORTAL POINT Ebisu」のコピー機スペースに掲げられたこの作品はえびす様が抱えている鯛がモチーフ。

ー最後に、恵比寿の街の魅力や想いを教えてください。

黒川  恵比寿・代官山は渋谷とは違う落ち着きを感じますね。ゆとりのある雰囲気が街全体から出ている気がします。また、お洒落で感度の高い人が多いですよね。我々としても、ターゲットを見据えた上でコンセプト作りをし、施設の作り込みをするので、そこにあった人が集まってきているなと感じます。

奥澤  恵比寿は昔から好きな場所でした。東京都写真美術館や恵比寿ガーデンシネマは以前から通っていましたし。大通りを1本外れると面白い道がたくさんあって、小さなお店が並んでいます。歩くのが楽しい街ですね。「co-ba ebisu」の構想段階で、代官山コンサバトリーというテーマを持っていて、家と街の間にある温室のような場所にしたいと思っていました。恵比寿はそれが実現できる場所だと思います。

ー今後の展開、目標などを教えてください。

奥澤  「co-ba」は、オーダーメイドで時代に合ったものを作っていきたいと思っていて、これまでは起業家の方やスタートアップの企業など、新しい働き方のモデルになるような人たちをターゲットにしてきました。これからは、さらに裾野を広げてビジネスを展開していきたいと思っています。最近では、直営だけではなく、全国の行政や企業さんからもお声がけいただき、オリジナリティのある施設や場づくりのプロジェクトも走っています。運営というのは分かりやすいゴールがなく、試行錯誤しながら一つひとつ答えを出し続けていくような仕事だと考えおり、その強みを活かせるような、長期的に関わり続ける事業や案件を手がけていきたいです。

黒川  こんな事業をしていますが、実は我々はリモートではなく、フル出社の形で働いているんです(笑)。業界によって違うと思いますが、社員が顔を合わせて同じ空間で働くことで効率が上がりますし、クリエイティブなアイデアも加速させることができると感じています。我々の手掛けた施設を利用される方々にも“出社したくなるオフィス”を提供したいと思っています。出社することにも価値を見出せる施設づくりをこれからも意識していきたいなと思います。もちろん、今後もスタートアップやベンチャー企業の方をターゲットとし、彼らを支援したいというのは変わりません。さまざまな分野の方がより活躍できるための場づくりを続けていきたいと思っています。

***

カフェのようにふらっと気軽に立ち寄れる「ドロップイン」がある場所から、まるでオフィスのようにたくさんの会社が入居するシェアワーキングプレイスまで、コロナ禍を経て本当に働き方や場所が多様になりましたが、今回登場していただいた二つの恵比寿のシェアワークプレイスの共通点は、いずれもスタイリッシュで洗練されていること。そして、海外の会社やスタートアップが入居していることで、新たな発想や考え方をシェアできるという利点がありそうです。こういった多様な働き方ができる場所が多数あることは、恵比寿のまちにとっても価値のあること。それぞれの会社が恵比寿エリア以外でも場づくりをされていますが、渋谷や原宿などと比べると、入居者の落ち着いた雰囲気が一番の特徴かも知れません。シェアワーキングプレイスを利用したことのない方も、会社や自宅以外にもう一つの居場所を持つことで、新たな出会いやアイデアが生まれるきっかけになるかもしれません。気になった方はぜひ一度見学してみてください。

「co-ba ebisu」
住所:東京都渋谷区恵比寿西1丁目33−6 1F/2F
お問い合わせ:03-5843-8620(受付時間:平日10:00〜19:00)
※詳細は公式サイトをご覧ください

「PORTAL POINT Ebisu」
住所:東京都渋谷区恵比寿4丁目20−4 ガーデンプレイスグラススクエアB1
お問い合わせ:03-6804-3944(受付時間:平日10:00〜19:00)
※詳細は公式サイトをご覧ください

Profile
奥澤菜採(おくざわ・なつみ)
バ・アンド・コー株式会社|Ba & Co Inc. 運営部ゼネラルマネージャー、企画部メンバー(兼任)。マンション総合管理会社にて、入居者コミュニティの企画運営、賃貸管理営業を経て、コンセプト型賃貸マンションの企画開発に携わる。2013年に株式会社ツクルバに入社、不動産企画デザインと自社事業「co-ba」の運営を兼務。2023年11月に同部門が新会社Ba & Co Inc.として独立し現職。
黒川 亮(くろかわ・りょう)
株式会社リアルゲイト 執行役員 企画営業統括部長。マンション・戸建売買の不動産会社勤務を経て、2018年4月リアルゲイト入社、執行役員就任。現在は企画営業部門を管掌する。
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