オルタナ恵比寿 Vol.4

「健康長寿でみんなが恵比寿顔!」ペットのためのワンダーランドが、飼い主とペットの未来を変える【後編】

August 15th,2024
現状に疑問を抱き、より良くするための活動を行っている人・場・企業にインタビュー取材をするシリーズ企画「オルタナ恵比寿」。第4回目は、恵比寿ガーデンプレイスの隣にある「恵比寿南一公園」に2023年に誕生した、ペットと飼い主の幸せな健康長寿を実現するために生活トータルケアなどを通じて最善の診療を行う施設「evergreen pet & cafe restaurant」にフォーカス。 医療サービスだけでなく、行動学に基づいたトレーニングをはじめ、里親支援やドッグヨガなどさまざまな講座を開催し、恵比寿のまちで少しずつ認知を高めている「evergreen pet & cafe restaurant」の獣医師である茂木千恵先生に設立の経緯や思い、どのようなお客様が利用され、コミュニティを形成されているかなど、事業内容の全貌を伺います。 後編では、茂木先生が獣医を志したきっかけや東京大学での動物行動学との出会い、生物の性格は遺伝や環境のどちらが作用するかなど興味深いお話にも触れていただき、マネージャー兼ドッグトレーナーの門阪優樹さんには幼稚園やドッグトレーニングの詳細をお話しいただきました。
Text : Izumi Khono Photo : Ukyo Koreeda Edit & Design : BAUM LTD.
Text : Izumi Khono Photo : Ukyo Koreeda Edit & Design : BAUM LTD.

茂木先生が獣医になりたいと思われたきっかけを教えてください。

茂木 私は和歌山県出身なのですが、家の前に田んぼが広がるような場所で育ちました。池をのぞくとメダカが泳いでいたりという、のどかなところです。当時、祖父がいろいろな動物を飼っていました。犬はいなかったのですが、鯉も金魚もジュウシマツも、ウサギもチャボもいました。毎朝庭先の大きな小屋で飼っているチャボたちの卵を取りに行くのが私の日課でした。動物のお世話が好きだったんですね。迷い犬を見かけると家からご飯を持っていってあげたりとか、そういうことが大好きな子どもでした。

小学校1年生のとき、念願だった犬を飼い始めました。ところが数ヶ月後のある日、突然リードが外れて、脱走してしまったんです。しばらくして呼び戻せたのですが、その間、どうやら殺鼠剤か何かを食べてしまっていたようで。数時間で死んでしまったのです。そのとき、本当にいたたまれなくて、悲しくて、何かできることがあったのではないかと悔やまれることばかりでした。と同時に、獣医になったらこういうことから動物たちを救えるのではないかと思うようになりました。

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さらに、ムツゴロウ動物王国に興味を持っていて、あんな風に常に動物たちに囲まれた生活をしたいと考えていたのですが、友だちから、「獣医になったら優先的に行けるらしい」ということを聞いたのも獣医への想いを後押しし、高校生のときに獣医を目指し始めました。

獣医を目指せる大学をいろいろ調べた結果、東京大学で学べることが分かり、結果入学しました。大学1年生のときに行動学の先生の動物生命科学一般という授業の中で、精神分析学者フロイトが唱えた“すべての行動には意味がある”という言葉に出会いました。教授に、「動物たちの行動にはすべて意味がある、彼らは動機づけに基づいて行動している。だからその動機づけを知ることができたら、知見を積み重ねることによって動物の気持ちが分かるようになる」と言われ、これこそが私が学びたいテーマだと確信したのです。

ムツゴロウさんのところに行こうと思って学び始めたところから、もっと行動のことを理解し、それを皆さんに還元していけたら、と考えるようになったわけです。皆さんがそうした知識を得ることで、ペットとの関係が良くなって、それを見ることが私にとっての幸せだと気づいたんです。

行動学の研究室が日本で初めてできたのが東大だったのですが、その教授の魅力に惹かれたというのが大きかったですね。教授はもう亡くなられたのですが、お見舞いに行ったときに病床で「君はね、講師としての仕事が向いてると思うから、ぜひともそうやって楽しく行動学を世の中に広めていってほしい」と言われたんです。それが遺言になりました。こうして今、広めることができる立場になれているのも教授のおかげです。

動物行動学についてもう少し詳しく教えてください。

茂木 動物行動学が日本に入ってきたのは今から30年ぐらい前と、比較的新しい学問分野なんです。もともと欧米でも行動学というものはなく、動物生態学(エソロジー)といって、鳥はなぜ渡りをするのかとか、夜行性動物はどういう脳の機能があって、夜に活動するのかとか、そういう行動や生態を研究する分野と、大脳生理学という動物や人間の行動を支配する大脳の機能を研究する学問、例えば、気持ち良い悪いは脳のどこが判断しているのか、という研究分野があります。それらを融合させることで新たな学問分野として創出されたのが動物行動学です。

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東京大学の大学院で研究を行っていたのですが、行動学というのは、動物の習性を重んじて、彼らの習性を曲げない、あるいは尊重する形で関わっていけば、問題行動はある程度予防できるし、正しいアプローチをすることで行動修正は効率よく進めていけるという考え方です。

飼い主さんが困ったなと感じることはすべて我々が関わっていく必要があるものだと考えています。なぜなら、飼い主さんが「困った」と思って動物を見ること自体が、動物にとってもストレスなんです。彼らは嗅覚や聴覚が敏感ですので、飼い主が感じているそういった憤りや葛藤も、言葉以外からも感じ取ってしまうのです。行動学はこのように、心理学や生態学、生理学などを駆使して動物のことを総合的に理解する学問分野です。

動物の性格は遺伝、環境、どちらと関係するのでしょうか?

茂木 動物の性格は遺伝と環境の両方、ほぼ半々の影響を受けることが、科学的な研究結果によって証明されています。ブリーダーさんが愛情を込めて育ててくださっているお母さん犬から生まれてくる子どもは穏やかな傾向があったり、基礎疾患を持ちにくいと言われています。性格の話で言うと、怖がりな子は生まれつき怖がりの性格が備わっているんですよね。

そう言ったことも踏まえて、我々のクリニックではエビデンスや自分たちの調査によって安全性が確立したものをアドバイスとしてお伝えしています。獣医療は20世紀後半から目覚ましく発展してきましたが、問題が起きていたらそこをしっかりケアする、という役割でした。でも、どうしてその疾患が起きたかという根本原因を考えることが重要です。

当院では、東洋医学に通ずる考え方を持った獣医師を集めているので、従来の治療ももちろん行いますが、その一歩先、予防的なことまでアドバイスさせていただいています。

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茂木先生が監修したペット関連の書籍。

ドッグトレーニングについて詳しく教えてください。

門阪 ドッグトレーニングには、飼い主さんと愛犬が共に参加できるグループレッスン、お預かり型のサービスである幼稚園、問題行動の解決をマンツーマンで行う個別レッスンをご用意しています。

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evergreen pet EBISU マネージャー兼ドッグトレーナー 門阪優樹さん

門阪 グループレッスンのパピークラスという、生後6ヶ月までのワンちゃんが参加することができるクラスがあります。行動学の専門用語に「社会化期」というのがあるのですが、犬ですと生後3週から12週、大型犬で36週までというかなり短い期間のことを呼び、これが成長に大きな影響を及ぼすと言われています。この時期のワンちゃんたちは、怖さを感じません。それをうまく利用して、社会に出たときに出会う様々な音(救急車の音、掃除機の音、傘を開く音etc.)に触れさせてあげるのです。また、同じ月齢同士でコミュニケーションを取らせたり、あえて年齢の高いワンちゃんをその輪の中に加えて社会のルールを犬同士で学んだり、といったことを行います。

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愛犬愛猫の性格を知るワークショップの様子。
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茂木 これは月齢の低い子犬ちゃんにとってとても重要なプロセスなのですが、実は現在の動物愛護管理法では、犬猫を入手できるのが生後7週以降と決められているんです。そうすると、ペットとして飼い始めてから社会化期が終わるまでの期間がとても短いというのが現状です。生み育てる親犬の飼い主さんが社会化期にどれだけの理解を持って子犬ちゃんたちに接し、コミュニケーションスキルを磨いたりしているか、というのは不透明です。また、残念なことに、生まれた子犬ちゃんを安価で売りさばくといったような経営形態の繁殖業者もいるのです。

ただ、トレーニングはいつからでも始められます。こちらでは、動物行動学をもとにしたトレーニングを実施していますので、いつからスタートしても遅くはないのです。ドッグトレーニングは飼い主がワンちゃんをコントロールするとことが目的ではなく、飼い主さんがワンちゃんとの時間をより豊かにできるようにすることが目的です。振り返ってみたら一緒に暮らしてよかったなと思っていただけるように、アプローチしたりアドバイスをしたりしています。

門阪 幼稚園は、ご家庭の希望やニーズによって通っていただいています。飼い主さんが仕事の前に預けて仕事が終わったら迎えに来る、というケースも多いです。通っていただいているワンちゃんの成長は、目に見えて分かります。他のワンちゃんとどう関わっていいか分からない子もいますが、回数を重ねるごとにワンちゃん同士で教え合いながら学習していきます。お預かりするだけではなく、ワンちゃん同士でたくさんのことを学びあうことが幼稚園の最大の特徴です。また、ワンちゃん同士の触れ合いは監督するトレーナーの技量に左右されます。私たちは何よりその部分に力を入れています。お預かり中は記録を取ったり解説動画撮影したりして、お帰りの際に飼い主さんにお渡しします。

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evergreen pet & cafe restaurantを恵比寿の街でどのように展開していきたいと考えていらっしゃいますか?

茂木 先日、この地域の方々と一緒にご紹介していただいた恵比寿のエリアマップができあがりました。私たちは、地域社会に開かれたペットのための楽園を目指していますが、恵比寿の街に受け入れられ、みんなとともに良い環境を築いていくことが重要だと思っています。ペットの健康長寿と飼い主さんの幸せにつながるサービスを提供することを目的としつつ、地域コミュニティとの連携を深め、相互に協力しながら活動を広げていきたいと思っています。

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幼い頃に愛犬を亡くした悲しい経験が獣医を志すきっかけになったという茂木先生。東京大学時代の恩師からの「行動学を世の中に広めていってほしい」という遺言を胸に今日まで動物と向き合ってきた先生のお話には、人と動物がどうすれば幸せに共生できるのかというメッセージがたくさん詰まっていました。こんなにずっと話を聞いていたくなる素敵な獣医さんがいる恵比寿のまちが、さらに魅力的に感じた今回の取材。ペットのワンダーランドとして今後どのような場となっていくのかが楽しみでなりません。食事もデザートもとてもおいしいので、カフェにもぜひ足を運んでみてください。

evergreen pet & cafe restaurant EBISU

東京都渋谷区恵比寿南1-26-1 恵比寿南一公園内 1F/2F
Cafe 11:30〜17:00(eat in LO. 16:30  )dinner 18:00〜21:00 ( LO. 20:30 pm )
evergreen pet :0120-299-112(フリーダイヤル)
evergreen cafe restaurant EBISU :03-5724-3660
https://evergreen-pet.com/

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