オルタナ恵比寿 Vol.3

ファッションの発信基地・恵比寿から地球の未来を考える。循環型社会を生む服のリサイクルの仕組みとは?【後編】

March 12th,2024

現状に疑問を抱き、より良くするための活動を行っている人・場・企業にインタビュー取材をするシリーズ企画「オルタナ恵比寿」。第3回目は、恵比寿の街で、着なくなった服を回収・リサイクルした後に、再製品化することで循環させる仕組みをつくりあげているリアルショップ「BRING EBISU」を紹介。「BRING™」は「あらゆるものを循環させる」を理念として掲げている株式会社JEPLANが運営する衣類回収のリサイクルプラットフォームであり、アパレルブランドとしての展開もされています。24年2月20日時点で200を超えるブランドが参加し、回収拠点は全国で4700(スポット開催含む)を超えていて、使い終わった古着などを新たな資源として独自の仕組みと技術で新品とほぼ同等品質に再生するということを実現されています。また、30を超える自治体とも提携し、使用済みペットボトルについても同様の資源循環に取り組んでいます。現取締役会長の岩元美智彦さんが繊維事業者の営業職時代に、繊維業界の廃棄問題を課題として捉えていたことが立ち上げのきっかけだといいます。

後編では、岩元さんが新たに提唱する製造小売業のビジネスモデル「ReSPA」のお話をはじめ、店長の宮武雅子さんに商品の魅力や機能について、人気商品などを伺います。

Text : Izumi Khono Photo : Yuka Ikenoya (YUKAI) Edit & Design : BAUM LTD.
Text : Izumi Khono Photo : Yuka Ikenoya (YUKAI) Edit & Design : BAUM LTD.

消費者を巻き込む新しいビジネスモデル「リサイクルSPA」

➖BRING EBISUが誕生した背景を教えてください。

まず、持続可能なSPA(製造小売業)を作ろうと考えました。企画から生産、販売までをトータルで行うのがSPAですが、これを「ReSPA(レスパ)」にしようと考えたのです。「ReSPA」すなわち、リサイクルSPAです。小売りまでを行うSPAに対して、消費者までも巻き込んで、洋服の回収を行っていくのがこのビジネスモデルです。

今から約40年前にSPAが生まれ、その後成長してきましたが、サステナブルな観点からも消費者が参加するReSPAがこれからの時代は大切なのではないかと思います。ReSPAを通じて循環型社会を作っていこうと世界中の企業に声をかけています。

今ようやくスタート地点に立てた感じですが、早く浸透させないと地球はもちません。そのためにさまざまな楽しいイベントを企画して、ReSPAモデルのお店を増やし、リサイクルの技術をレベルアップさせることに力を注いでいるのです。

「BRING EBISU」はその第一号店になるのですが、2023年秋には高尾山のふもとに新店舗「BRING CIRCULAR TAKAO」をオープンさせました。高尾山の年間の登山者数がおよそ270万人と、世界一登山客が多い山としてギネスブックに認定されています。そういう場所にも、ReSPAを作り、文化を育もうと考えたのです。

「BRING CIRCULAR TAKAO」では、アパレル販売、衣類回収に加え、併設するカフェで環境に配慮して生産、焙煎、抽出されたコーヒーなども提供しています。

2023年秋、高尾山のふもとにオープンした新店舗「BRING CIRCULAR TAKAO」

➖BRING EBISUの店長・宮武雅子さんにお話を伺います。どのようにしてBRING EBISUに出会ったのか教えてください。

このお店ができたのが、2021年11月なのですが、オープンと同時にこの会社に入社しました。小さなお店ですし、お客様お一人おひとりに対して丁寧に接することができるという点や、自分がいろいろなことを担当できる点に魅力を感じ、新しいチャレンジとして、飛び込みました。

最初は、さまざまなイベントに出店し、BRING™のこと、お店のこと、リサイクルのことなどをより多くの方に知っていただくよう力を注ぎました。イベントで知ってくださったお客様が後日お店にいらして、SNSで見たよ、と来てくださるお客様も徐々に増えていきました。

「BRING EBISU」店長・宮武雅子さん

➖BRING EBISUにはどんなお客様がいらっしゃいますか?

初年度は、リサイクルに関するお仕事をされている方が、知識を得たいという理由で来店されていました。2021年当時、SDGsが社会で大きく取り上げられ、各企業が様々な取り組みをスタートした時期でしたので、“サステナブル事業部”が新設されたのだけれど、何をしたら良いか分からず、調べていたらBRING™にたどり着いた、というお話も聞きました。

2年目になると、ブランドとして成長してきて、商品自体に魅力を感じてくださる方が増えました。もともとユニセックスで展開していましたが、アウトドア志向の男性のお客様が多かったため、当初は商品も男性寄りになっていました。その後、女性の方からのリクエストもあり、レディスのアイテムも取り揃えるようになりました。

また、アウトドアアクティビティを楽しむ方々に人気のメリノウールを使った商品も注目され、アウトドアブランドとしての地位を確立しました。

機能性、着心地、ファッション性を追求したアウトドアブランド

➖BRING™の服の特徴を教えてください。

BRING™は、北九州の工場で再生した原料を用いて、再び服にまで何度も循環させるサーキュラーエコノミーを社会に実装しているブランドです。再生ポリエステルでできた糸、生地(BRING Material™)を使用して服を作っています。

世界では、壊滅的な気候変動を避けるためにも、ポリエステルの元になっている化石燃料を地中にとどめておくべき、ポリエステルを使わない方が良い、などと言われたりもします。しかし我々は、資源循環させて何度も繰り返し使えるのであれば結果として、環境にやさしいのではないかと考えます。ポリエステルをサステナブルな原料に変えよう、ということです。

とは言うものの、BRING™を購入してくださるお客様は、機能性や着心地などを重要視しています。ポリエステルの速乾性といった高い機能性を持たせつつ、コットンのような肌触りを実現させ、普遍的なデザインにより、アウトドアでも日常使いでも楽しめるラインナップとなっております。

ポリエステルでありながらコットンっぽい肌触りを実現していることを特徴に上げましたが、特に日本人は、コットンや麻など、天然繊維を好む傾向にあります。ファッションとしては天然繊維を着たい人でも、山登りなど、アウトドアの過酷な環境においてはポリエステルの機能が無視できない、というのが現状です。ポリエステルでありながら、お洒落でなおかつタウンウェアとしても使いやすいというのがBRING™の服です。

高機能でありながら普段使いもでき、さらに手に取りやすい価格帯なので、アウトドア初心者の方にも受け入れられています。年齢も、性別も関係なく、様々な人に着ていただけるブランドです。

➖サイズ展開を教えてください。

Tシャツやスエットは7サイズ展開(XS~3L)、上下のセットアップなどはSMLの3サイズで展開しています。“走れるセットアップ”として打ち出していますが、パンツだけで言うとそのまま登山やランにも行けますし、上下で着用すれば、仕事に行って、そのまま走りにいく“帰宅ラン”も実現可能です。また、シワにならないので、出張着としても重宝されています。

➖お店にいらっしゃるお客様についても教えてください。どんな方々でしょうか?

ふらっと入ってくださる方もいれば、BRING™のことを知ってわざわざ足を運んでくださる方も多くいます。恵比寿という地域柄もあるのか、ファッション感度の高い方やサステナブル意識の高い方などもたくさんいらっしゃいます。コンセプトを聞いて賛同し、古着を持ってきてくださるご近所の方もいます。

➖人気商品について教えてください。

WUNDER WEAR(ワンダーウェア)が一番よく売れています。再生ポリエステルとメリノウールを掛け合わせたシリーズなのですが、そのとろけるような肌触りが魅力です。再生ポリエステルと天然の高性能素材メリノウールを混紡することで、抗菌防臭効果が期待でき、乾きやすいのが特徴です。また、ウォッシャブルウールなのでメンテナンスが簡単な点も人気の秘密です。なかでも、前後、さらには表裏を使用することで「四日間はける」と言われる防臭性に優れたアンダーウェアはヒットアイテムのひとつ。ボクサータイプでオールジェンダーに対応しています。冬になると同じシリーズのトップスも人気です。

再生ポリエステルとメリノウールを掛け合わせた人気シリーズ「WUNDER WEAR」

そのほかにも、ポリエステル100%のデニムパンツもヒットアイテムです。通常のデニムは経年変化を楽しむと思いますが、再生ポリエステルのデニムは色落ちしないので、最初に買ったときの色のままずっと着続けていただけます。蒸れにくく乾きやすいので、そのまま山登りにも行けるクライミングパンツです。

リュック、トート、ショルダーとして利用できる3WAY仕様のトートバックも人気商品のひとつ。ビジネスシーンでもカジュアルシーンでも使いやすいアイテムです。

リサイクル、サステナブルというキーワードは大切ですが、BRING™は、ファッションとして楽しんでいただけるブランドです。恵比寿の街で、楽しく、お洒落をしながら、地球の未来を考えていけたらと思っています。

編集部が購入したキッズTシャツと靴下、「WUNDER WEAR」。

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店長の宮武さんに商品をくまなく紹介していただき、私たち「ひらく庭」編集スタッフも山登りが趣味なこともあり、どの商品も「欲しい〜」と大興奮。大人気シリーズの「WUNDER WEAR」はこの冬、本当にあたたかく着心地が良いので重宝しています。岩元さんが提唱する消費者も巻き込んだ小売業のサイクル「ReSPA」という考え方にも共感し、買ったお店でリサイクルするという流れを自分たちの日常の当たり前にできたらという想いも強くなりました。最後に、宮武さんに恵比寿の魅力を尋ねると、「おいしいお店がたくさんあること!」と返ってきました。街歩きを楽しむなかで、思いがけず地球の未来を考えるきっかけと出会える。恵比寿という街がさらに奥深く、魅力的に思える「BRING EBISU」にぜひ足を運んでみてください。

ファッションの発信基地・恵比寿から地球の未来を考える。循環型社会を生む服のリサイクルの仕組みとは?【前編】記事はこちら

「BRING」
住所:東京都渋谷区恵比寿西2-9-8 大澤ビル1F
営業時間:水・木・金・土 12:00~19:00(祝日および店舗が別途定める日は休業日)
お問い合わせ:03-4400-1251(営業時間のみ)

https://bring.org/

Profile
岩元美智彦

1964年鹿児島県生まれ。88年北九州大学(現北九州市立大学)卒業後、繊維専門商社に就職。営業職に従事する。95年「容器包装リサイクル法」の制定を機に繊維リサイクルに深く携わる。2007年に現社長の髙尾正樹と共同で日本環境設計(現・JEPLAN)を創業。15年アショカ・フェローに選出。16年より取締役執行役員会長。

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