オルタナ恵比寿 Vol.2

街のために自分たちが存在する。
恵比寿に進出した人気店「Atelier LaLa」の”街”への想いとは?【前編】

September 27th,2023
現状に疑問を抱き、より良くするための活動を行っている人・場・企業にインタビュー取材をするシリーズ企画「オルタナ恵比寿」。Vol.2では、恵比寿ガーデンプレイス内に昨年オープンしたレストラン「Atelier LaLa」の女将・北奥京子さんをインタビュー。

北奥さんは、東京都豊島区を中心に、15店舗14業態を展開されている株式会社グリップセカンドの全店統括マネージャー。「本当のサービスとは何か?」を追求するオーナーの金子信也さんとともに多くのファンを持つ人気レストランを手がけてこられました。また、全国60以上の生産者とリレーションを構築しながら 地域産業や地域活性に貢献するほか、食材廃棄率1%達成のための社内体制の構築、 女性活躍によるダイバーシティの実現など、 飲食事業を通じて様々な課題解決にも取り組まれています。

北奥さんが飲食業界でどのような想いやチャレンジ精神をもって、人々の心をつかむレストランをつくりあげてきたのか、今の時代に求められる場づくりや飲食業界が抱える課題解決方法などを伺います。
Text : Izumi Khono Photo : Yuka Ikenoya (YUKAI) Edit & Design : BAUM LTD.
Text : Izumi Khono Photo : Yuka Ikenoya (YUKAI) Edit & Design : BAUM LTD.

街に貢献したいという強い想いで、街とともに成長する

はじめに、北奥さんが飲食業界に携わるようになったきっかけを教えてください。

株式会社GLIP SECOND(グリップ セカンド)のオーナー金子信也と出会ったのは、彼が立ち上げた一店舗目のお店でした。友人に誘われてたまたまお客さんとしてお店に行ったのが最初です。

私自身、早くに子どもを産んで、2人の子を育てるシングルマザーだったのですが、飲食業界に携わってはいたものの、パートとして働いていました。もともと飲食が大好きで、自分でもお店をやってみたいという夢がありました。でも、それは、具体的な目標というものではなく、“実現しないであろう夢”のようなものでした。

それを、金子に話したんですね。すると彼から、「僕もサラリーマンでなにもないところからスタートしてこうしてお店を持てるようになったんだから、君もできるよ。叶うよ」と言われたんです。

それから約1年後に突然連絡が来て。神楽坂にあるお店を誰か信頼できる人に渡したい、というお話があり、私の顔がポンと浮かんだそうなんです。「お店を任せたいのだけど、やってみないか」と声をかけられました。今から20年近く前の話です。その頃、上の子は中学生、下の子も小学生で、そろそろしっかり働きたいと思っていたので、ちょうど良いタイミングだったんですね。お話を引き受けました。正社員として働き始めたのですが、その当時、32~33歳でした。飲食業界で仕事をしている人たちからすると、かなり遅いスタートですよね。でもそこから必死に働いて、学び、今に至っています。

GRIP SECONDの全店統括マネージャー北奥京子さん。新店舗ができるたびに数週間現場に出て接客している。
恵比寿ガーデンプレイス内に2022年にオープンしたレストラン「Atelier LaLa」

その後、池袋の人気店「GRIP」に移られるんですよね?

そうなんです。その後、池袋の『GRIP』を立ち上げることになったのですが、それまで小さなお店しか運営してこなかったということもあり、50席もある『GRIP』でキッチンスタッフやサービススタッフなどがうまく連携が図れておらず、良いチーム作りができていなかったんです。

そこで、立ち上げを手伝ってほしいという依頼を受け、『GRIP』で新しいスタートを切ることになりました。それ以来、お店の立ち上げには必ず現場に入るようになりました。現在でも、お店がオープンすれば役職など関係なく、ホールスタッフとして1ヶ月はお店に立っています。

レストランがあることで人が集い、豊かになる

現在池袋を中心に、15店舗を展開されていますが、レストランをどのような位置付けで捉えていらっしゃるのでしょうか?

池袋駅から徒歩4分の賑やかな街中に佇む『GRIP』は、グリップ セカンドの原点とも言える場所。

『GRIP』は街場のレストランでスタートしているのですが、当時、20年前から、「街に貢献できるレストラン」というコンセプトを掲げていました。オーナーが海外に行ってレストランを見たときに、レストランがあることでそこの生活圏の人が豊かになったり、人が増えたり、レストランが街を作っていく、という光景を目にしたそうです。一方、日本ではチェーン店が並んでいて街を作っているようにはあまり見えなかったようです。オーナーから「レストランが街を作る」というモチベーションを共有されていたので、私たちはこの街に貢献しなければならないんだと自然と考えるようになっていました。

南池袋には、お寺や墓地があり、あまり人が行き交うような場所ではありませんでした。「GRIP」の前も墓地なので、そんな場所のレストランが流行るわけないとも言われました。実際、1年目はとても苦労しました。でも、私たちはお客様とのコミュニケーションや繋がりを大事にしていたこともあり、少しずつ街の方々が来てくださるようになりました。お客様がさらにいろんな人を連れてきてくださって、徐々に認知されるようになり、3年目くらいに予約が取りづらい人気のお店に成長しました。

グリップセカンドを運営していく中での転機はいつでしたか?

『GRIP』が人気店になったころ、『RACINES Boulangerie & Bistro』をオープンしたんです。これが第一の大きな転機でした。やがてこちらも行列ができるようになり、その頃から商業施設への出店のお話もいただくようになりました。

現在も商業施設への展開をしていますが、私たちは商業として見ておらず、あくまでもその街に存在するレストラン、という位置づけで捉えています。例えば、お客様とのコミュニケーションや距離感を大切にし、お客様のお名前を呼ぶとか、お店に入ってくださるからお客様なのではなく、その地域に集う人がみんなゲストだと思うことなど、どのお店であっても、街や人にどう貢献できるか、どんな手助けができるか、ということを常に考えています。

暗く人が集うことのなかった公園が、レストラン誕生により生まれ変わる

そこから店舗が拡大していったのですね。

そうですね。次に訪れた大きな転機は、2016年の南池袋公園にある『RACINES FARM TO PARK』のオープンです。豊島区との官民連携事業として公園レストランを運営しているのですが、最初にこのお話をしてくださったのは、GRIPに来てくださっていたお客様だったんです。そこから1年くらいかけて、公園をどうしたいか、ということを話し合って、結果、私たちが選ばれました。

南池袋公園とともにある『RACINES FARM TO PARK』。青々とした芝や空を眺めながら朝から夜まで思い思いに過ごすことができる。

グリップセカンドのほかにも、競合の会社がありましたが、最終的な理由として、『GRIP』や『RACINES』の実績が認められたとでも言うのでしょうか。これらのレストランは、もともと人通りのない場所にありましたが、徐々に人が集まるようになり、さらには街が潤っていったというのが、選ばれた大きなポイントだったようです。

この公園はもともと暗くて、昼間でも家族や友人たちと集まるような場所ではありませんでした。それが今では、小さなお子様からご年配の方までが集う、明るく開かれた公園に生まれ変わりました。このレストランを運営することで、やっと地域に貢献できるということを示すことができたと感じています。

お客様とのコミュニケーションはもちろん、スタッフ間のコミュニケーションも大切に

お客様との関係性を築くために工夫されていることはありますか?

どの店舗も意識していることは、赤ちゃんからお年寄りの方まで、どなたにも居心地の良さを感じていただくこと。世の中にはベビーカーでは入りづらいレストランも多くありますが、私たちはベビーカーももちろんOKですし、みなさんに安心して来ていただけるようにしています。

また、小さい頃からお誕生日のお食事に来られていて、毎年同じ日に予約してくださる方を一緒にお祝いしたり、しばらく見なかったお子様がいらっしゃったら「大きくなったね!」と声をかけたり、まるで親戚のように成長を見守っていて、そういう長いお付き合いができているように思います。

スタッフ間でもお客様の情報を共有しているので、お店にいつ行っても、同じ対応をさせていただける、というのも特徴です。実は系列のほかのお店でも、情報共有がされているんです。だから、どのお店に行ってもwelcomeな雰囲気ですし、心地よく過ごしていただけると思います。そういったことも、長く通ってくださる理由なのではないでしょうか。

お客様とのコミュニケーションを大切にしていますが、スタッフ同士のコミュニケーションも非常に重要だと考えているので、その日あったことなどを日々報告しあうようにしています。気持ち良いサービスが提供できている秘訣かもしれません。

複数の店舗を様々なエリアで展開されていますが、場所によって違いを感じることはありますか?

私たちは同じ名前でお店を展開したりしていますが、チェーン展開というよりも、それぞれの土地でコンセプトも違いますし、同じ生産者から素材を仕入れていても、どう活かすかは各店舗によって違います。その街に溶け込み、その街の方と作り上げるレストランだと考えています。

池袋が本店ですが、青山には青山のお客様が、恵比寿には恵比寿のお客様がいらっしゃいます。私たちはそれぞれの街で、どう貢献できるかを意識し、地域の人々に喜ばれる場所でありたいと思っています。

***

「いつか自分でもお店をやってみたい」。そんな “実現しないであろう夢”が叶ってから20年。池袋を中心に地域に愛される店づくりを続けてこられた北奥さん。青山や恵比寿など、街が変わっても、グリップセカンドのお店のDNAをきちんと継承しながら店舗を展開することで、さらなるファンを増やし続けているのだと感じます。“ちゃんと美味しい”ことはもちろん、お店に流れるお客様の楽しそうな空気感やスタッフのさりげない気配りや気持ちの良いサービスもグリップセカンドの飲食店の魅力。後編では、食材へのこだわりや女性活躍によるダイバーシティの取り組みなどを伺います。


オルタナ恵比寿 Vol.2 街のために自分たちが存在する。恵比寿に進出した人気店「Atelier LaLa」の”街”への想いとは?【後編】記事はこちら




Atelier LaLa
TEL : 03-6721-7150
東京都渋谷区恵比寿4-20-7
恵比寿ガーデンプレイス センタープラザ B1F

Lunch 11:00〜14:00(L.O. 14:00)
Café  14:00〜16:30(L.O. 16:00)
Dinner 18:00〜22:00(L.O. 21:00)
Shop   11:00〜20:00定休日 不定休(施設の休館日に準ずる)
Atelier LaLa WEBサイト

Profile
女将 北奥京子 Kyoko Kitaoku
2004年、「鼎(かなえ)」にて株式会社グリップセカンドでのキャリアをスタートする。その後、「GRIP」「Racines Boulangerie & Bistro」など複数の店舗において運営全般を担当した後、2010年より全店統括マネージャー「女将」に。現在は店舗運営における責任者として各店舗のマネジメントを統括するほか、人材育成や商品企画、新店舗の立ち上げなどにも従事。2020年にオープンした「4hours」は出店に際して業態監修を手がけた。また、女性目線を活かした商品企画開発を目的に社内プロジェクトを発足。女性マネージャーらとともに、契約農家の果実を使ったクラフトビールをマイクロブルワリーと共同開発、自社マイクロブルワリーを創設するなど、チャレンジングな取組を次々に仕掛けている。こうした活動を通じて、女性たちが活躍できる環境を多く作り出し、女性活躍による多様性ある企業カルチャーを創出することにも力を入れている。
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