健康とコンビニエンスストア。一見相容れないように思われる、この二つの要素を組み合わせたハイブリッドなお店が、2022年5月、恵比寿にオープンしました。「WELLER」は、「健康をもっと手軽に」をコンセプトとした、まったく新しい形のコンビニエンスストア。健康≠コンビニという固定概念を覆すかのように、店内には、おいしいだけでなく人々の健康を助けるプラントベース(植物由来)の食品やスイーツのほか、野菜や雑穀をふんだんに使い、調味料にまでこだわった作りたてのお弁当やお惣菜が並んでいます。
運営母体は、恵比寿にオフィスを構え、ベンチャー設立などの投資事業を中心に行う株式会社サンブリッジコーポレーション。「食品関連の事業に関わったのはこれがはじめて」という同社は、なぜまったく畑違いのコンビニをはじめることになったのでしょうか。
「WELLER」の立ち上げに一から関わってきた同社の経営企画室/マネージャーの木戸口奈那子さんにお話を伺いました。
Text & Edit : Atsumi Nakazato Photo : Madoka Akiyama Edit & Design : BAUM LTD.
Text & Edit : Atsumi Nakazato
Photo : Madoka Akiyama
Edit & Design : BAUM LTD.
ベンチャーキャピタルが健康特化型コンビニをオープンした理由
ベンチャー企業の投資・育成を手掛ける御社が、健康に特化したコンビニエンスストア「WELLER」を立ち上げることになった経緯を教えてください。
WELLERのオーナーであり、運営母体である弊社の代表取締役を務めるアレン・マイナーは、日本オラクルの初代代表にして、今やクラウド型ビジネスアプリケーションの代表格である「Salesforce」の日本導入にも関わり、日本のIT業界で長く活躍してきました。その一方、ベンチャーキャピタリストとしても世界的にその名を知られており、これまで数々のベンチャー企業に投資し、14件ものIPO(新規株式公開)を実現させてきました。
これまでビジネス一辺倒だったアレンが、健康に興味を持ったのは、2020年11月にリンパ癌を発症したことがきっかけでした。そのとき、母親の勧めから、アメリカの健康学者、ウイリアム・リーが癌を予防するための食事法を紹介する動画を見て、研究成果に深く感銘を受け、「食べたもので身体はつくられる」ことに改めて気がついたのです。
それと同時に、アメリカでは健康に関する研究がこれほど進んでいるにも関わらず、その研究成果が日本でほとんど知られていないことに問題意識を抱き、世界の食科学のトレンドや実状を熱心に調べ始めました。その中で、アメリカでは、Plant(植物)、Nutrition(栄養)、Physician(医師)を合わせた造語で、「プラントベースの食事の効果に関する知識を備えている医師」という意味を持つ「Plantrician(プラントリシャン)」が登場し、さらには、病気の予防や進行を抑制するため、プラントベース(植物性)でホールフード(未精製食品)の食習慣を推進しようと、医療の専門家による「Plantrician Project(プラントリシャン・プロジェクト)」という組織がすでに情報発信を始めていることを知ったのです。科学的根拠に裏付けられたこのプロジェクトを日本に広め、健康に関する正しい情報を届けることで世の中を変えていきたい。そんなアレンの思いからWELLERは生まれました。
アレンさんの「健康に関する正しい情報を届けたい」という熱い思いが、立ち上げの発端にあったのですね。
これまでIT業界で活躍し、たくさんの人脈や資産を得ましたが、今後は本当に人々が健康になるような事業を展開し、社会貢献をしていきたいという思いが芽生えたようです。
今SDGsやエシカルといった言葉をよく耳にしますが、社会的意義のあることってビジネスになりがちじゃないですか。もちろん店舗を継続するためにある程度の利益は必要ですが、私たちが大事にしているのは、そこではなく、「できることを当たり前にやろう」というマインドです。WELLERを通して、誰かの健康的な食生活を後押しするきっかけになれたらと思っています。
健康へのハードルを下げるために「コンビニ」を選択
お店の形態として、コンビニエンスストアという業態を選択した背景にはどのような考えがあったのでしょうか。
実は、最初はレストランをやろうと計画していたんです。でもコロナ禍で思うように進まず、お弁当の販売を検討し始めたのですが、それにも行き詰まっていた頃、恵比寿駅前に建った新しいビルの空き店舗の募集広告をアレンが見てとても気に入り、「ここ借りて” お店”をやろう」と言い出したんです。結局その物件は家賃が高くて借りられなかったのですが、その出来事がコンビニを選択するきっかけになりました。というのも、アレンはオラクル時代にセブンイレブンのデータベースの構築を手掛けたことがあり、コンビニの物流システムのすごさに衝撃を受けて、「いつかコンビニをやってみたい」と思っていたそうなんです。いざお店をやろうというときに、そのことを思い出したようです。
急展開ですね(笑)。
アレンはやると決めたらすぐに始めたいタイプなので、もう誰にも止められなくて(笑)。「健康食のコンビニをつくろう」とアレンと話をした翌日には不動産屋さんと店舗探しで20軒ほど回って、ちょうど今の物件に出会いました。ここまでの経緯をお話しすると、コンビニを選択したのは偶然のように思われるかもしれませんが、もちろんそれがすべてではありません。アレンは退院後、自分でプラントベースの食事を摂ろうと試行錯誤したところ、日本では材料を集めることすら難しく、健康的な食事法を実践するにはとてもハードルが高いことを思い知らされました。そこで、世の中を変えるために、おいしくて健康を助ける食品が「誰でも」「いつでも」「気軽に」手に入るコンビニのようなお店を目指すことにしたのです。
世の中の健康に対する意識を変えるために選択した手段が、「コンビニ」だったということですね。これまで健康とコンビニは相容れないものと捉えられてきたからこそ、健康×コンビニのインパクトは大きいように思います。ハイブリッド型のコンビニとして、特徴的なところを教えてください。
「健康へのハードルを下げる」ことが私たちのやるべきことだと思っています。
一つ目は、コンビニらしく、できるだけリーズナブルな価格設定に努めていること。これまでの健康食レストランや自然派食品店は高級路線が多く、値段設定も高めな傾向がありましたが、WELLERでは毎日の食事選びに、当然のように健康志向を取り入れてほしいという思いから価格のハードルを下げました。
二つ目は、地下一階にキッチンを併設し、作りたてのお弁当やお惣菜を提供していることです。調理の手間をかけずに「買ってすぐに食べられる」手軽さを大事にしています。アレンがWELLERをスーパーではなくコンビニにしたかった理由がそこにもあります。
三つ目は、気になった商品を気軽に試せるように、バラ売りを取り入れていることです。新しいものを生活の中に取り入れることってハードルが高いので、一度試して納得した上で使い続けてもらいたいと思っていて。「健康をもっと手軽に」というコンセプトを具現化するために、どうすればお客様が手に取りやすいかを常に考え、販売方法を工夫しています。
健康とコンビニの「ハイブリット」だからこそ恵比寿に馴染む
商品のラインナップの方はいかがでしょうか?
もちろんリーズナブルで手軽なだけではなく、商品のラインナップや品質にも徹底的にこだわっています。WELLERで取り扱っているのは、健康に関してエビデンスのある商品だけ。一般的な自然食品を扱うお店は、オーガニックや無添加が重視されますが、WELLERは無添加はもちろん、プラントベースであることを徹底しています。
これだけで健康になれると言うと怪しまれてしまうのですが(笑)、プラントリシャンプロジェクトでは、科学的根拠によって裏付けられた健康な食事としてプラントベースが推奨されています。日々乳製品や動物性の食品を摂らないだけで免疫力がアップし、癌や生活習慣病を予防できると言われているのです。正しい情報を提供することに力を入れているところが、従来の自然派食品店との違いと言えますね。
情報発信はどのようにされていますか?
店舗を通して手軽に商品を試してもらう一方、HPとInstagramで情報発信を行っています。また、今プラントリシャンプロジェクトの日本法人の立ち上げを進めていて、アメリカのチームと一緒に情報発信を強化したり、ゆくゆくは推奨されている食事法を体験できるプログラムの提供もできればと考えています。
私もそうだったのですが、健康な人がこれまでの食習慣をいきなり変えることって難しいと思うんです。一度取り入れてみたらその良さをわかっていただけると思うのですが、伝え方がすごく難しいなと思っていて。なので、できるだけカジュアルに、気軽に始めてみようと思っていただけるようなアプローチを目指しています。正しい情報を提供することで、行動につなげてもらうきっかけになれたらうれしいです。
WELLERの出店先として、なぜ恵比寿の街を選んだのでしょうか?
弊社のグループ会社である株式会社サンブリッジは、1999年に渋谷のマークシティのオフィスからスタートし、その後、恵比寿に移転しました。ほかにも、恵比寿にはアレンが代表を務める企業がいくつかあり、恵比寿は自分たちのホームだと言えるほど愛着を感じている街です。
アレンが日本で広めようとしているプラントベースの食事法は、これまでの食習慣や価値観を覆される部分が大いにあるので、それをいきなり多くの人に実践してもらうのは難しい。そこで、まずは自分が大切にしている社員が多い街で地道に始めてみようと考えたことが、恵比寿に出店を決めたきっかけでした。誰よりも先に社員のみんなに取り入れてほしいという思いもあったのだと思います。
また、恵比寿の人たちはよりよい生活に対する意識が高く、情報のキャッチアップが速いところも理由の一つです。表参道や代官山は生活感がなくおしゃれして出かける街というイメージですが、恵比寿はおしゃれでセンスのある店が多いのに下町の風情も残っていて、ハイブリッドな街だなと思うんです。健康とコンビニのハイブリッドを目指しているWELLERと近い部分があって、だからこそ、恵比寿の街に馴染んでいるんじゃないかなと思います。
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世界的なベンチャーキャピタリストのアレン・マイナーさんが病気をきっかけに気づいた「食」の大切さ。「日々口にするもので身体はつくられている」という言葉は、当たり前のことながら、改めてハッと気付かされます。日本ではまだ耳慣れないプラントリシャンプロジェクトを体験できるプログラムも興味深いですね。後編では、WELLERの販売商品の選定基準などの店舗運営の具体的なお話や将来的な展望について伺います。
(*後編は2月28日頃公開予定です)
WELLER 恵比寿店
営業時間:平日 10:00~19:00 / 定休日 日曜日
TEL : 03-6721-7150
東京都渋谷区恵比寿1-15-4 メゾン115
JR「恵比寿」駅 東口より徒歩2分
東京メトロ日比谷線「恵比寿」駅 1番出口より徒歩4分